防災対策として備蓄しておきたい水。災害時に必要な量と保存方法

防災対策として備蓄しておきたい水。災害時に必要な量と保存方法。
地震や台風などの自然災害が発生すると、私たちの生活を支えるライフラインが突然止まることがあります。特に「水」は命に直結する存在であり、最も早く不足を実感するものです。
水が手に入らないという状況は、想像以上に深刻です。飲み水がない、トイレが流せない、手が洗えない――
そうした状態が数日、場合によっては数週間も続くことがあります。
そのため、日頃から十分な水を備蓄しておくことは、防災対策の中でもとても大切です。この記事では、災害時に必要とされる水の量や、備蓄方法、実際の震災事例をもとにした復旧の現実について、具体的に解説していきます。
震災時の断水と水道復旧にかかる期間
断水が発生した際、水道がどの程度の期間で復旧するのかを知ることは、「どれだけの水を備えておくべきか」を判断するうえでの重要な手がかりとなります。
国土交通省が公表した資料(令和6年能登半島地震における日本水道協会の応援活動と得られた課題・教訓)によると、過去の主要な震災における水道復旧の状況は以下の通りです。
災害名 | 概ねの復旧目安(給水人口の9割) | 備考 |
---|---|---|
東日本大震災(2011) | 約3週間後 | 太平洋側広域が被災。復旧の地域差が大きかった。(※1) |
熊本地震(2016) | 約1週間後 | 被害が比較的限定的。迅速な対応が可能だった。(※2) |
能登半島地震(2024) | 約11週間後 | 奥能登6市町で水道施設が壊滅的被害。県内の全域での復旧は5月末まで遅延。(※3) |
特に能登半島地震では、奥能登地域の水道インフラが壊滅的な打撃を受け、全域で断水。県全体として「ほぼ解消」とされたのは地震から5ヶ月後の5月末でした。
このように、震災の被害規模や地形条件、支援体制によって復旧のスピードは大きく異なります。したがって、「3日分で十分」とは言えない現実があるのです。
災害時に必要な水の量
政府が推奨している水の備蓄量は、「1人あたり1日3リットル × 最低3日分=9リットル」です。これは飲料や簡単な調理などをまかなうための量ですが、あくまで最低限の基準です。
前述のように、能登半島地震のように断水が数週間に及ぶケースも実際に起きており、「3日分では足りない」可能性があることが明らかになってきています。そのため、最近では10日から2週間分を備えることが望ましいとされつつあります。
たとえば1人あたり14日分を備える場合:
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3リットル × 14日 = 42リットル/人
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4人家族なら 42リットル × 4人 = 168リットル
これだけの量を一度に用意するのは大変ですが、**2Lのペットボトルを1〜2本ずつ買い足していく「ローリングストック法」**を取り入れることで、無理なく備蓄が可能です。
生活用水として必要な量
水は飲むためだけでなく、トイレを流したり、手を洗ったり、簡単な洗濯をしたりといった生活用水としても必要です。
内閣官房の防災情報によると、生活用水としては1人あたり1日10〜20リットル程度が必要とされています。
これをまかなう方法としては、以下のような備えが有効です。
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風呂の残り湯をためておく
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ポリタンクに水道水をくみ置きしておく
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給水タンク付きのアウトドア用ウォータータンクを常備
生活用水は飲用に比べて大量に必要となるため、水道が使えなくなることを前提に、複数の手段を組み合わせて確保しておくことが大切です。
災害時に備えた水の備蓄方法
水を備える方法には、大きく分けて「ペットボトルなどで備蓄する飲料水」と「水道水をくみ置きする生活用水」があります。それぞれの特徴とポイントを見ていきましょう。
ミネラルウォーター・長期保存水などのペットボトル水
飲料水として最も手軽に備えられるのがペットボトル入りのミネラルウォーターや長期保存水です。
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通常のミネラルウォーター:賞味期限は1〜2年程度
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長期保存水(災害備蓄用):賞味期限は5年〜10年
賞味期限を過ぎたからといってすぐに飲めなくなるわけではありませんが、直射日光や高温を避けた保管が重要です。また、より日常に取り入れやすいのが「ローリングストック法」です。
ローリングストック法とは、普段使う水を定期的に消費・補充しながら備蓄する方法。
飲んだ分だけ買い足せば、常に新しい水が備えられている状態を維持できます。
家庭では、2Lボトルを人数分×数日分、もしくは扱いやすい500mlボトルを複数本用意しておくのがおすすめです。
くみ置きした水道水
飲料水に加え、生活用水を確保するためには水道水を事前にくみ置きしておくことも大切です。
くみ置きの基本ポイント
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清潔でフタ付きの容器に、口元まで水を入れる(空気との接触を最小限に)
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蛇口から直接注ぎ、沸かしたり浄水器を通さないこと(塩素が残っている状態で保存する)
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飲用として使う場合は、直接口をつけずコップなどで注ぐ
保存期間の目安:
保存環境 | 保存期間の目安 |
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常温 | 約3日間 |
冷蔵庫 | 約10日間 |
保存期間を過ぎた場合でも、洗濯・掃除・トイレなどの生活用水として有効に活用できます。
ポリタンクやキャンプ用ジャグなど、使いやすく注ぎやすい容器を選ぶのがポイントです。
給水所の利用
災害発生時、水道が復旧するまでの間、自治体が**給水所(応急給水拠点)**を開設します。ただし、自治体によって対応方法や場所は異なるため、自分が住む地域の給水体制を事前に確認しておくことが大切です。
東京都の例
東京都では、次のような形で応急給水が行われます。
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避難所内の応急給水栓や指定消火栓からの給水
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区市町村が設置する仮設水槽への給水車による補給
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区市町村ごとに給水拠点を設けて運営
このように、多くの自治体では複数の給水ルートを確保していますが、いずれも混雑や配給制が発生する可能性があるため、事前の備えがやはり重要です。
携帯用浄水器
携帯用浄水器は、雨水や川の水などを飲用レベルにろ過するための道具です。ただし、実際の災害では使用された事例がそれほど多くないのが現状です。
その理由は:
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雨水や川水を使う機会が少ない
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給水所や備蓄水で足りるケースが多い
とはいえ、次のようなケースでは役立つ可能性があります。
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山間部や離島など給水支援が遅れる地域
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登山やキャンプ中に予想外の事態に見舞われた場合
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都市部でも断水が長引き、給水所の利用が困難なとき
コンパクトで軽量な浄水器を1つ防災リュックに入れておくと、「最終手段としての安心感」につながります。
まとめ
水の備蓄は、防災対策の中でも最も基本であり、同時に最も重要な準備のひとつです。
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過去の震災では、断水が1〜2週間、場合によっては数ヶ月続いた例もある
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飲料水は最低3日、できれば10〜14日分の備蓄を
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生活用水も合わせて確保し、風呂やポリタンクの活用を
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地域の給水所情報を事前に確認し、緊急時の手段も持っておく
今から少しずつ、水の備えを始めてみましょう。家族の人数や住まいの環境に合わせて、「自分たちに必要な水の量と方法」を考えることが、命を守る一歩となります。